パソコンが突然起動しない。社内のネットワークにつながらない。いつも使っているソフトが動かない。
製造現場でこうしたトラブルが起きると、影響するのはパソコンだけとは限りません。図面が見られない、加工に必要なデータを取り出せない、受注や出荷の情報を確認できないなど、仕事そのものが止まることがあります。
大切なのは、すべてのトラブルを防ぐことだけではありません。
「止まったとき、何を優先して復旧するのか」を平時から決めておくことも、情報セキュリティ対策の一つです。
パソコンが使えなくなる原因は一つではない
「パソコンが使えない」と聞くと、まず故障を思い浮かべるかもしれません。
しかし、仕事ができなくなる原因はいくつかあります。
パソコンやソフトの障害
パソコン本体やハードディスクなどの故障、OSや業務ソフトの不具合によって、突然仕事ができなくなることがあります。
特に、特定のパソコンにしか入っていないソフトやデータを使っている場合、その1台が使えなくなるだけで業務が止まることがあります。
ネットワークの障害
パソコンそのものは正常でも、社内ネットワークやインターネットに接続できなければ、ファイルサーバーやクラウドサービスなどが利用できなくなることがあります。
「パソコンは動いているのに仕事ができない」という状態です。
セキュリティ上の問題
ウイルス感染や不正アクセスなどが疑われる場合には、被害を広げないためにパソコンやネットワークの利用を止めなければならないこともあります。
この場合は、単純な故障とは対応が異なります。
早く仕事を再開したいからといって、原因が分からないまま元のネットワークにつないだり、安易に通常運用へ戻したりすることが適切とは限りません。
社長が考えるべきは「どう直すか」より「何から戻すか」
パソコンの修理方法やネットワークの設定まで、社長が詳しく知る必要はありません。
一方で、何を優先して復旧するのかは、IT業者だけでは決められません。
たとえば工場なら、
- 今日加工する製品の図面
- CAD・CAMなどで使用するデータ
- 生産や受注に関する情報
- 出荷に必要な情報
- 見積りや請求などの事務処理
では、止まったときの影響や緊急度が異なります。
全部を同時に復旧しようとするのではなく、どの仕事を先に動かす必要があるのかを決めることが経営判断になります。
平時に社長が決めておきたい4つのこと
1.止まると困る仕事を決める
まず確認したいのは、「パソコンが使えなくなったら、どの仕事が止まるのか」です。
設備そのものは動いていても、図面や加工データを取り出せなければ生産できないかもしれません。
一方、数日後でも対応できる業務もあります。
「何が止まると一番困るのか」を整理すると、守るべきパソコン、データ、ネットワークも見えてきます。
2.どこまでなら止められるかを考える
次に、「その仕事は、どのくらい止まっても大丈夫なのか」を考えます。
30分でも困る仕事と、翌日までに復旧すればよい仕事では、必要な備えは違います。
すべてを止まらない仕組みにしようとすれば、費用も手間も大きくなります。
だからこそ、経営者が業務の重要度と必要な対策のバランスを判断することが大切です。
3.使えないときの代わりを考える
重要なパソコンが壊れたときに、別のパソコンで仕事を続けられるでしょうか。
ネットワークが止まった場合に、最低限必要な情報を確認する方法はあるでしょうか。
すべての業務に代替手段を用意する必要はありません。
まずは「これが使えなくなったら会社として困る」という仕事から、代わりの方法があるかを考えてみましょう。
4.誰が止め、誰が復旧を判断するか決める
トラブルが起きたときに意外と困るのが、「誰に聞けばよいのか分からない」という状態です。
担当者、パソコンに詳しい社員、保守業者、ソフト会社、インターネット回線の事業者など、問題によって相談先も異なります。
さらにセキュリティ上の異常が疑われる場合には、
「このパソコンを使い続けてよいのか」
「ネットワークから切り離すのか」
「いつ通常業務へ戻すのか」
といった判断も必要になります。
社員がその場で迷わないよう、誰へ報告し、誰が判断するのかを決めておきましょう。
バックアップは「取っている」で終わらせない
重要なデータのバックアップは、工場を止めないための基本的な備えです。
ただし、確認したいのは「バックアップしていますか」だけではありません。
そのデータを使って、実際に仕事を再開できるでしょうか。
たとえば、
- どのデータをバックアップしているのか
- いつの時点のデータまで戻せるのか
- どこに保存されているのか
- 誰が復旧するのか
- 別のパソコンでも使えるのか
まで確認しておくと、バックアップを「保管」ではなく「復旧のための備え」として考えられます。
まずは「緊急時の1枚」をつくってみる
大がかりなマニュアルを最初からつくる必要はありません。
まずはA4用紙1枚程度でも構いませんので、次のことを書き出してみてください。
- 止まると特に困る仕事
- その仕事で使っているパソコン・ソフト・データ
- どの仕事から復旧するか
- 代わりの方法があるか
- 社内で最初に連絡する人
- パソコンやネットワークの相談先
- セキュリティ上の異常があった場合の相談先
- バックアップからデータを戻す方法
実際に書いてみると、「このパソコンが壊れたら代わりがない」「このソフトは誰に問い合わせるのだろう」といったことに気づくはずです。
それが、対策を始める入口になります。
セキュリティ対策は、工場を動かし続けるための経営管理
情報セキュリティというと、ウイルス対策やパスワードなど、「攻撃されないための対策」に目が向きがちです。
もちろん、トラブルを起こさないための予防は大切です。
しかし、ハードウェアは故障することがあります。ソフトウェアにも不具合は起こります。ネットワークも常に使えるとは限りません。そして、サイバー攻撃を完全になくすこともできません。
だからこそ経営者には、何かあったときにも会社の重要な仕事を続けられる状態をつくるという視点が必要です。
まずは工場を見渡して、「明日、このパソコンが使えなくなったら何が止まるだろう」と考えてみてください。
答えがすぐに出ないところがあれば、そこが最初に整理しておきたいポイントです。
自社だけではパソコン、ネットワーク、業務の関係を整理しにくい場合には、ITだけでなく業務全体を見ながら専門家と一緒に整理する方法もあります。

