教育は「見える化」から始まる
社員を育てたいけれど、どこから手をつけてよいかわからない――そんな悩みを抱えていませんか。
中小企業では、ベテラン社員が仕事をしながら後輩を教えるOJTが、人材育成の中心になりがちです。
しかし、
「何から教えるかは先輩社員に任せている」
「誰がどこまでできるのか分からない」
「教える人によって内容が違う」
という状態では、育成が担当者任せになってしまいます。
そこで役立つのが「スキルマップ」です。
結論として、スキルマップは作ること自体が目的ではありません。
仕事に必要なスキルと社員の現在地を見える化し、「誰に、何を、どう育てるか」を明確にしてOJTにつなげることが重要です。
スキルマップとは「仕事」と「できること」を見える化する表
スキルマップとは、業務に必要な知識や技能を整理し、社員一人ひとりがどの程度習得しているかを一覧で確認できるようにしたものです。
たとえば製造現場であれば、
「機械を安全に操作できる」
「段取り替えができる」
「図面を読める」
「品質を確認できる」
「異常発生時に対応できる」
といった、実際の仕事に必要な能力を整理します。
そして、それぞれについて「指導を受けながらできる」「一人でできる」「人に教えられる」といった習得状況を確認します。
これによって、
「この仕事をできる人が一人しかいない」
「若手に次に覚えてもらうべき技能は何か」
「ベテランから引き継ぐべき技能は何か」
が見えやすくなります。
スキルマップは社員を順位づけする表ではなく、人材育成や技能継承の課題を見つけるための道具として使うことが第一歩です。
スキルマップは4つのステップで作る
1.まず仕事を洗い出す
最初から「社員にどんな能力があるか」を考えるのではなく、まず自社の仕事を整理します。
「この部署では、どのような仕事をしているか」
「この仕事を一人で担当するには、何ができればよいか」
という順序で考えます。
業務そのものが曖昧なままでは、必要なスキルも明確になりません。
2.必要なスキルを決める
次に、それぞれの仕事に必要な知識や技能を具体化します。
「営業力」「技術力」のような大きな言葉だけでは、できる・できないを判断しにくくなります。
できるだけ、実際の仕事を見て判断できる表現にします。
ベテラン社員に、
「この仕事を一人で任せるためには、何ができればよい?」
と聞いてみるのも有効です。
普段は言葉になっていない技能や判断のポイントが見えてくることがあります。
3.現在の習得状況を確認する
必要なスキルが整理できたら、一人ひとりの現在地を確認します。
ここで重要なのは、細かく点数をつけることではありません。
「まだ経験していない」
「指導を受けながらできる」
「一人でできる」
「ほかの社員に教えられる」
など、自社で判断しやすい基準を決めます。
上司だけで一方的に評価するのではなく、本人とも確認しながら、今後伸ばしたい能力を話し合うと育成につなげやすくなります。
4.育成する優先順位を決める
スキルマップを作ると、多くの不足項目が見つかることがあります。
すべてを同時に育てようとする必要はありません。
「今後の事業に必要な技能」
「一人しか担当できない仕事」
「若手に早く覚えてほしい仕事」
など、会社として優先度の高いものから育成計画に落とします。
中小企業では、最初から全社版の大きなスキルマップを作るより、一つの部署や重要な業務から小さく始める方が運用しやすいでしょう。
スキルマップをOJTにつなげる
スキルマップで「何を育てるか」が明確になったら、具体的なOJTを考えます。
OJTは、単に「先輩の仕事を見て覚えてもらう」ことではありません。
少なくとも、
誰が
誰に
何を
いつまでに
どのように教えるのか
を決めておきます。
たとえば、「機械Aの段取り替えを一人でできるようになる」という目標なら、担当する先輩を決め、実際の作業の中で説明・実践・確認を繰り返します。
一定期間後にスキルマップを見直し、
「できるようになったこと」
「まだ練習が必要なこと」
「次に身につけること」
を本人と確認します。
こうすることで、OJTが「その日の仕事を教えること」から、目標を持った計画的な人材育成へ変わります。
OJTだけで足りないことは、Off-JTで補う
すべてをOJTで教える必要もありません。
現場で実際に経験することが有効な技能はOJTで、基礎知識や資格、安全教育など、体系的に学んだ方がよい内容はOff-JTで補います。
研修、外部講習、eラーニング、動画マニュアルなども選択肢になります。
大切なのは「OJTかOff-JTか」を先に決めることではありません。
スキルマップで必要な能力を確認し、その能力を身につけるのに適した方法を選ぶことです。
スキルマップを「査定表」にしない
スキルマップは、目標管理や人事評価に活用することもできます。
ただし、導入当初から評価や給与と強く結びつけると、社員が「できないことを探される表」と受け取ることがあります。
まずは、
「何ができるようになったか」
「次に何を身につけたいか」
「会社として何を育てたいか」
を話すための道具として使うことをおすすめします。
育成の仕組みが定着してから、必要に応じて目標設定や評価との関係を考えても遅くありません。
社員本人が成長を実感でき、会社も必要な人材を計画的に育てられる。その両方を目指すことが重要です。
まずは一つの仕事から始めよう
社員教育を仕組みにしようとすると、最初から立派な教育体系を作りたくなるかもしれません。
しかし、小さな会社では運用できることの方が重要です。
まずは、
「この仕事をできる人を、もう一人増やしたい」
という業務を一つ選んでみてください。
その仕事に必要な技能を書き出し、誰がどこまでできるかを確認する。
そして、次に誰を育てるのか、誰が教えるのかを決める。
それだけでも、スキルマップとOJTを使った人材育成は始められます。
「何を育てるか」を見える化し、「どう育てるか」をOJTにつなげる。
その積み重ねが、属人的な教育から、会社として人を育てる仕組みへの第一歩になります。


