「黒字なのに苦しい」の正体
「うちは黒字決算なのに、いつも資金がギリギリなんです」
そんな声を経営者からよく耳にします。実際、利益が出ているにもかかわらず、資金繰りの悪化で経営が行き詰まるケースは少なくありません。
その背景にあるのが、「利益」と「現金」は必ずしも一致しない、という経営の基本構造です。
お金が減る原因は「利益に表れにくい支出」
企業の会計では、売上や経費を計上し、利益を算出しますが、これはあくまで帳簿上の利益であり、「実際に手元に残る現金」とはズレが生じます。
中小企業において現金が減る主な要因として、次のようなものがあります：
- 借入金の元本返済（利益には含まれないが、現金は出ていく）
- 設備や車両などの購入（支出は一括、費用計上は複数年）
- 売上計上後の入金遅れ（売掛金の回収が遅い）
- 過剰な在庫仕入れによって現金が滞留
こうした支出は、損益計算書だけでは把握しづらく、資金繰りの実態を見落としやすくなります。
「現金の動き」を経営者自身がつかむ方法
中小企業の経営者が、会計ソフトやキャッシュフロー計算書に精通していなくても、資金の動きをつかむことは可能です。まずは、次のような基本的な行動から始めてみましょう。
- 毎月の現金残高を確認する
- 前月と比べて、増えたか減ったか。その理由を一言で説明できるようにする
- 年間の大きな支出予定を把握する
- 借入返済、税金、賞与など、まとまった支出がある月をカレンダーで見える化
- 売上ではなく「入金額」に注目する
- 売上があっても現金が入ってこなければ意味がないことを意識する
こうした「キャッシュ感覚」を磨くことが、健全な経営の第一歩です。
事例：小売業C社が実践した“現金優先”の経営改善
県内の小売業C社では、年商1億円超、黒字決算を維持していたにもかかわらず、資金繰りの不安が常につきまとっていました。
原因は、セール時期に仕入れを前倒ししすぎて在庫が膨らみ、売れる前に資金が不足していたことでした。
経営者は次のような手順で改善を進めました：
- 月末ごとに現金残高と在庫金額を手書きで記録
- 入金と支払いを１枚の用紙に時系列で並べ、先々の資金の谷間を把握
- 「今月使えるお金」をあらかじめ決め、予算内で行動する意識を徹底
会計知識は不要でも、数字を“経営の感覚”に落とし込むことで、実際の資金管理が大きく改善しました。
キャッシュフロー経営は「感覚の習慣化」から始まる
難しい帳簿や財務書類を読みこなす必要はありません。
経営者が、自分の目で現金の増減を見て、なぜそうなったのかを説明できるようになること──それが、キャッシュフロー経営の基本です。
まずは、通帳の残高を確認し、「先月より増えた？ 減った？ なぜ？」を考えることから始めてみましょう。
今日からできる、小さな行動の積み重ねが、明日の資金危機を防ぐ力になります。
